横浜地方裁判所 平成8年(ワ)1936号 判決
横浜市旭区柏町五八番地の一
原告
河野禮通
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被告
国
右代表者法務大臣
松浦功
右指定代理人
小暮輝信
渡部義雄
田部井敏雄
加藤正一
池上照代
中澤彰
木村忠夫
上田幸穂
山本善春
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金五四五万円及びこれに対する平成五年九月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
原告が、被告に対し、被告の公務員の行った訴訟の証拠資料の違法な収集行為によって経済的な損失及び精神的苦痛を被ったとして損倍賠償の請求をしている事案である。
一 争いのない事実
1 横浜地方裁判所平成五年(ワ)第一三一六号損害賠償請求事件(「一三一六号事件」)において、検事池本壽美子(「池本検事」)は、被告国の指定代理人であった。
2 一三一六号事件において、中澤彰、川名克也、関澤照代及び比嘉毅は、被告国の指定代理人であった。
3 一三六一号事件において、石倉正光(「石倉事務官」)及び木村武義(「木村訟務官」)両名は、被告国の指定代理人として行動した。
4 一三一六号事件に関し、木村訟務官及び石倉事務官は、平成五年九月二七日、株式会社大栄住宅(「大栄住宅」)横浜支店において、原告の所得税に関する調査として、原告との取引に関する調査(「本件調査」)を行った。
5 本件調査の際、右両名は、大栄住宅から関係書類の写し(「本件書類」)の交付を受けた。
6 一三一六号事件の平成五年一〇月一九日の口頭弁論期日において、被告国は、本件書類を書証として提出した。
二 原告の主張
1 池本検事の指示を受けて、木村訟務官及び石倉事務官が、裁判所の令状もないのに、本件書類を押収した行為は違法である。
2 一三一六号事件は民事事件の裁判手続きである。
本件調査は、所得税法に基づく質問検査権を行使して行われている。
所得税法に基づく質問調査権を、民事事件の裁判において証拠収集の目的で行使するのは違法である。
3 木村訟務官及び石倉事務官が、一三一六号事件において、被告国の指定代理人として法務大臣から適正な指定を受けていないのに、被告国の指定代理人として本件調査を担当したのは違法である。
4 一三一六号事件において被告国は、違法な手段によって取得した建物登記簿謄本を証拠として提出した。
三 争点
1 本件書類等の収集及び証拠としての提出行為が違法か否か。
2 損害額
第三争点に対する判断
一 争点1
1 本件調査及び本件書類の取得は、強制的に行われたものではないから、これらが強制的になされたことを前提としてなされている原告の違法性の主張は採ることができない。
2 所得税法に基づく質問調査権を行使する方法によって民事裁判の証拠を収集すること自体には何ら問題がなく、これをもって違法と解すべき理由は特にない(乙九)。
よって、これと異なる考え方を前提として立論されていると解される原告の違法性の主張は採ることができない。
3 原本の存在及び成立ともに争いのない乙第一〇号証の指定書によれば、木村訟務官及び石倉事務官は、一三一六号事件において、法務大臣から被告国の指定代理人として指定されていることが認められる。
よって、これと異なる事実を前提とする原告の違法性の主張は採ることができない。
4 被告国が、違法な手段によって建物登記簿謄本を取得した事実は認められない。
三 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないので、主文のとおり判決する。
(裁判官 北村史雄)